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第049-0話 無人化ノード

作者: 百舌巌
last update 最終更新日: 2025-02-26 11:01:45

自宅。

 廃工場に有った水野の死体は網に入れて下水の中に吊るしておいた。こうすると、日常の排水で死体が削られて、骨だけになるのが早いのだ。おまけに遺体独特の悪臭も防げる方法だった。

 このやり方はロシアのマフィアが好んだやり方だ。

 何故、知っているのかというと、少年時代に悪さをして捕まった時。警察の留置所で、同房のマフィアのおっさんに教わったからだ。彼は生意気そうな小僧に自慢したかったのだろう。

 まさか、見知らぬ国で役に立つとは思わなかった。

 詐欺グループから戴いた金はアオイに預かって貰っていた。

 大金過ぎてどこに隠すかを考えていなかったせいもある。また、捨てられたら敵わない。

 数日、経って詐欺グループのマンションで動きが有った事が分かった。

 水野の携帯電話を盗聴モードにしたまま、家で盗聴してそれを録音をしていたのだ。

 日中は学校がある。中学生らしく塾に行くし、ちょっと銃で撃たれたりして忙しい。

 それに傷の経過をアオイに見てもらったりする必要もある。

 最初は部屋の中にドタドタと足音が響いていた。水野を呼ぶ声も聞こえる。

『あっ、金がねぇ!』

『どういう事だ? あっ??』

『金庫の中の金が全部無いんです……』

 大山と思わしき声が録音されていた。別の人物の声が聞こえる。

 これ見よがしに金庫は開けっ放しにしておいたのだ。水野の荷物と思われる物も運んでおいた。

 彼らは直ぐに何が起きたかを理解したらしい。

『どうすんだ? オマエ??』

『……』

『お前がサツにガラ拐われたって言うから、今まで待ってやったんだろ?』

『いや、水野に金を持ってかれたみたいで……』

 別の人物の声が大きくなるのに比例して大山の声は小さくなっていった。

 どうやら大山は神津組の連中と一緒のようだ。釈放されて警察から出た所で捕まってしまったのだろう。

『それが組と何の関係があるんだ?』

『でめえのダチの不始末だろ?』

『舐めてるんか?』

 何やらドスの聞いた声が聞こえる。録音を聞いていても分かるぐらいに険悪な空気に成った。

 すると何やらひとしきり殴打する音や、何かが暴れる音が響いて急に静かになった。

 その後、何かを引きずる音が聞こえた後は静かになった。

 これで詐欺グループの連中にも罰が下ったのだろう。

「クスクス……」

 ディミトリは録音を聞きながら笑い声を漏らしていた。
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    自宅。 廃工場に有った水野の死体は網に入れて下水の中に吊るしておいた。こうすると、日常の排水で死体が削られて、骨だけになるのが早いのだ。おまけに遺体独特の悪臭も防げる方法だった。 このやり方はロシアのマフィアが好んだやり方だ。 何故、知っているのかというと、少年時代に悪さをして捕まった時。警察の留置所で、同房のマフィアのおっさんに教わったからだ。彼は生意気そうな小僧に自慢したかったのだろう。 まさか、見知らぬ国で役に立つとは思わなかった。 詐欺グループから戴いた金はアオイに預かって貰っていた。 大金過ぎてどこに隠すかを考えていなかったせいもある。また、捨てられたら敵わない。 数日、経って詐欺グループのマンションで動きが有った事が分かった。 水野の携帯電話を盗聴モードにしたまま、家で盗聴してそれを録音をしていたのだ。 日中は学校がある。中学生らしく塾に行くし、ちょっと銃で撃たれたりして忙しい。 それに傷の経過をアオイに見てもらったりする必要もある。 最初は部屋の中にドタドタと足音が響いていた。水野を呼ぶ声も聞こえる。『あっ、金がねぇ!』『どういう事だ? あっ??』『金庫の中の金が全部無いんです……』 大山と思わしき声が録音されていた。別の人物の声が聞こえる。 これ見よがしに金庫は開けっ放しにしておいたのだ。水野の荷物と思われる物も運んでおいた。 彼らは直ぐに何が起きたかを理解したらしい。『どうすんだ? オマエ??』『……』『お前がサツにガラ拐われたって言うから、今まで待ってやったんだろ?』『いや、水野に金を持ってかれたみたいで……』 別の人物の声が大きくなるのに比例して大山の声は小さくなっていった。 どうやら大山は神津組の連中と一緒のようだ。釈放されて警察から出た所で捕まってしまったのだろう。『それが組と何の関係があるんだ?』『でめえのダチの不始末だろ?』『舐めてるんか?』 何やらドスの聞いた声が聞こえる。録音を聞いていても分かるぐらいに険悪な空気に成った。 すると何やらひとしきり殴打する音や、何かが暴れる音が響いて急に静かになった。 その後、何かを引きずる音が聞こえた後は静かになった。 これで詐欺グループの連中にも罰が下ったのだろう。「クスクス……」 ディミトリは録音を聞きながら笑い声を漏らしていた。

  • クラックコア   第048-2話 御伽噺を信じる者

    『じゃあ、これからは巧く逃げる事だな……』「え?」『公園で女と待ち合わせしてから、何日経っていると思ってるんだ?』「え?」『どうして金庫に有るはずの金を俺が持っていると思うんだ』「……」『大山ならとっくに釈放されたよ』 もちろん嘘だ。だが、気を失っていた水野にはバレないはずだ。『大山も神津組も、お前が金を横領したと思っている……』「ちょ!」『そう、思わせるように工作しておいた』「なんて事をしてくれたんだ!」『お前らは悪戯が過ぎたんだよ……』「金をかっさらったのはお前だろうがっ!」『知らない男に拉致されて金を奪われました…… そんな眠くなりそうな御伽噺を誰が信じるんだ?』「大山なら信じてくれるはず……」『スジモンの拷問がエグい事は知らない訳じゃないだろ』「……」『耐えられるのかね?』「くっ……」『ふん……』 ディミトリは頭の後ろで、マスクを固定していたバンドを緩めた。「それに大山って奴なら神津組が連れて行ったぜ?」 被っていたマスクを取りながら言った。「小僧……」 水野は自分を脅していたのが、童顔の小僧だと知って驚いていた。だが、直ぐに顔を真っ赤にして激怒しはじめた。 しかし、直ぐに怪訝な表情になった。「あれ? お前って……」 どうやら若森忠恭である事に気が付いたようだ。 それと時を合わせるかのように、後ろに手を組んで座っていたはずのアオイが、手を払いながら立ち上がってきた。 呆けた顔で二人を見比べた水野は、ここに至ってようやく気が付いた。「お前らはグルだったのか!」 水野はディミトリに掴みかかろうと一歩踏み出した。ディミトリはナイフをチラつかせて見せた。 彼はナイフを見て怯んだ。自分は手ブラの状態だからだ。しかも、これから神津組から逃げる算段をしないといけない。 ディミトリの言う通り金を取られてしまったなど信じてもらえないだろう。喧嘩などしている場合では無いのだ。「クソっ!」 ディミトリは無言でナイフで追い払う仕草をしてみせた。水野はがっくりと肩を落として出口に向かおうとしていた。 だが、机の上に置かれたナイフが水野の目に止まった。すると、水野の怒りが爆発したようだ。 水野は机の上に有ったナイフを掴んだ。そして、そのままディミトリに向かって突進してきた。 次の瞬間。ドンッ 背中から銃

  • クラックコア   第048-1話 詰まらない男

    廃工場。 ディミトリとアオイの二人は、目的の金を手に入れたので廃工場に戻ってきた。 水島は椅子に縛られたままグッタリとしていた。『起きろ!』 ディミトリは水野たちを襲撃した時に被っていたマスクで声を掛けた。声も同じ様に変声アプリで変えている。 アオイは少し離れた壁際で、手を後ろに回して座っていた。一見すると拘束されているように見える。「!」 目を開けた水野はマスクを被った男に気がつくと驚愕していた。そして、縛られた身体を捻るようにしながら必死に逃げようとしている。しかし、結束バンドで両手両足を椅子に固定されているので自由にならない。「て、テメエはっ!」「解けっ!」「ぶっ殺してやるっ!」 ディミトリは暴れる水野を革バットで殴りつけた。鈍い打撃音が室内に響き渡る。『金はどこにある?』「知らねぇって言ってるだろ!」 ディミトリは革バットで水野を殴りつけた。水野の口から歯がこぼれ落ちた。奥歯が折れたのであろう。『ちゃんと質問に答えろ』「いえ、知りません……」 ディミトリは革バットで水野を殴りつけた。『金庫の鍵は持っているのに金庫の場所は知らないっていうのか?』「え?」 ここで、水野はマスクの男が自分の独り言を知っている訳に気が付いた。目をパチパチしながら視線が泳いでいるのが分かる。 ひどく動揺しているのであろう。『もういい…… お前が嘘付きだってのは良く分かった』 ディミトリはディバッグの中身を水野に見せた。そこには金の札束が詰まっていた。「え?」『台所に有ったよ……』「知っているのなら……」 水野は俯いている。どうやら万事休すだと思い知ったようだ。だが、肝心の話はこれからだった。 アオイの件を片付けなければならない。金だけだったら身柄を拐う必要が無いからだ。『で、この女は誰だ?』「知らねぇよ!」 ディミトリは再び革バットで水野を殴りつけた。ここからが肝心な部分だ。彼の希望を打ち砕く必要がある。 そうしないと本当の事を話さないであろう。『ちゃんと質問に答えろ』「知りません」『そう、それで良い。 だったら、何で一緒に居たんだ?』「……」 水野は黙り込んだ。どこまで話して良いのかを思案しているのであろう。だが、それもディミトリの計算の内だ。「その人は妹のストーカー男の事で、私の周りをウロツイて居たんで

  • クラックコア   第047-0話 待望の偽装品

    自宅。 ディミトリは盗聴した結果をアオイに電話で伝えた。そして、彼を呼び出す様に言ったのだ。『どうするの?』「どうせ、まともに質問しても答えないだろう?」『うん……』「だからさ……」 ディミトリは自分の計画をアオイに言い聞かせた。彼女は絶句していたが、妹のために協力を約束した。 数時間後。アオイが公園で待っていると水野は一人でやって来た。「こんばんは。 今日は妹さんはご一緒では無いので?」「これからやって来るんです」「そうなんで……」 ディミトリはアオイに気を取られている水野に近づき、後ろからスタンガンで気絶させてしまった。「え?」「ちゃんと自主的に答えやすいようにしてあげるのさ」 ディミトリはほほえみながら答えた。気絶させたのは、身柄を拐って廃工場に連れ込む為だ。 結束バンドで手を拘束して車に詰め込み、薬の売人たちを始末した工場に向かった。(あの工場なら今も無人のはずだ) 一度、罠として使用した工場をチャイカたちが再び来るとは思えなかったからだ。 ディミトリとアオイは工場の奥の部屋に水野を運び込み椅子に縛り付けた。(次は金庫の鍵を……) 水野の荷物から鍵を取り出し、アオイにマンションに向かうように頼み込んだ。鍵はどれだか分からないが、肌身離さず持っているはずだと睨んでいたのだ。違っていたら聞き出せば良い。その方法なら良く知っている。「でも、そこって……」 ディミトリが言った住所を聞いた時にアオイの表情が曇った。彼女が『ストーカー男』を始末した場所だからだ。「ああ、水野たちのアジトがあるんだよ」「水野?」「ん? あの男の名前だよ?」「え? 偽名だったの?」「そう、元はオレオレ詐欺のグループのメンバーなのさ」 元々、水野たちのマンションを見張るのが目的だったのだ。そのカメラに事故の様子が映っていたのだと、説明すると彼女は納得したようだった。「君って本当は幾つなの?」 監視カメラの設置とか、拳銃を持っていたりとかアオイの常識の範疇を越えていた。とても、中学生とは思えなかったのだろう。 もっとも中身は三十五歳のおっさんだが、彼女が知っても意味が無いのでディミトリは言わない事にしていた。「ぼくみっちゅ……」「もう……」 ディミトリがふざけるとアオイが頭を小突いてからクスクス笑っていた。 鍵を入手したディ

  • クラックコア   第046-0話 変声期

    学校。 ディミトリは水野の移動を監視していた。授業中にスマートフォンを見る事は出来ないので、休み時間ごとにトイレで見ていた。 水野は例の襲撃したマンションに帰宅したようだ。(あの場所からアジトを移動してないのか……) ここで手を止めて考え込んだ。アオイに渡した名刺の名前は『桶川克也』となっている。 名前を変えているのは、違う詐欺事件を考えているのだろうかと考えた。(引っ越しの金が無いのか?) 彼らは警察のガサ入れに遭っている。という事は警察に事情徴収されているはずだ。 なのに外に出ているという事は、詐欺事件との関係を立証できなかったかで釈放されたのであろう。 (俺なら引っ越しして身を潜めるんだがな……) 普通なら同じ場所に住み続ける気には成らないはずだ。警察は証拠無しぐらいでは諦めない。蛇のようにしつこいのだ。 だから、警察の監視が付くのは分かりきっている。これは水野も知っているはずだった。(或いは移動できない理由が有るかだ……) ディミトリの顔に笑みが広がっていく。金の匂いを嗅ぎつけたのか、ディミトリは鼻をヒクつかせもした。 ディミトリは帰宅した後で、マンションに行って盗聴器と監視カメラを仕掛けるつもりだ。 二回目の仕掛けは手慣れたのも有って短時間で済んだ。盗聴器は同じ場所に設置したが、監視カメラは通りが見える場所にした。警察の監視が付いていると思われるからだった。 盗聴器を仕掛けて直ぐに、水野が誰かと会話しているらしい場面に遭遇した。『大山は直ぐに出てくると思いますので、金の事は大山と話してください……』 大山とはディミトリが散々痛めつけたリーダーであろう。直ぐに出てくると話していると言う事は拘留されたままなのだ。 残りの二人は他の詐欺グループにでも鞍替えしたのか居ないようだ。『いえ、勝手すると自分がシメられてしまうんで勘弁してください……』 水野はリーダーが隠した金の保管を任されているようだ。 恐らく証拠不十分で不起訴になってしまうだろう。彼らは決定的な証拠は隠滅しているらしかった。(そうか…… まだ、金は持っているんだな……) だが、肝心な所は彼らは上納金を渡していないという点だ。 その事を知ったディミトリはニヤリと笑っていた。『小遣い稼ぎは自分でやってますんで…… はい…… 大丈夫です』 相手はケツモ

  • クラックコア   第045-0話 ツイてない奴

    ファミレスの様子。 アオイは水野と二人っきりでファミレスで逢っていた。こうしないと病院の受付から移動しないのだ。 常識的な勤め人として病院に迷惑を掛けるのが嫌だったのだ。『鴨下さんは僕の会社で働いていたと言いましたよね?』『はい……』『その彼がどうして交通事故に会う場所に行ったのかが分からないのですよ』『私も知りません……』『でも、貴女が住んでる場所の近くじゃないですか?』『同じ市内と言うだけで近くは無いです。 通勤する経路からも外れてますし……』『へぇ、その場所を良くご存知ですよね?』『警察に聞きました……』 水野は何度目かの同じ質問をしているようだ。警察の尋問のやり方にそっくりだが、これは水野が似たような目に有っているからだろう。警察の尋問は同じ質問を繰り返して、相手が答えた時に出来る矛盾点を見つけ出す作業だからだ。 そこを突破口にして真相を抉り出すのが仕事なのだ。『彼は優秀な方で、貴女や妹さんの事は特に目を掛けていたらしいんですがねぇ』『私達の話を聞いたので?』『質問しているのは僕なんだがな』『……』 アオイは水野がどこまで知っているのかを質問したかったが、下手に言うとやぶ蛇になる可能性が有った。 そして水野もアオイが焦れて怒り出すのを待っているようだ。『特に妹さんの事を話す彼は楽しそうでしたよ?』『……』 水野は言外にストーカー男がやった事を匂わせているようだ。そうすることでアオイを怒らせて白状させようとしているのだと推測できた。 それはアオイにも感づかれたようで話を逸らし始めた。『私達は彼には特に思い入れは有りませんわ』『でも、同じ市内に住んでるのはご存知だったんでしょ?』『さあ、知りません……』 これは事実だったのだろう。一家離散してまで逃げたのに、またストーカー男が目の前に現れた時の絶望感は察して余りある。 だからこそ、ストーカー男を永久に黙らせる方法を選んだに違いないからだ。『妹さんのアパートに訪ねに行ったと言ってましたが……』『ええ、聞いてます。 それから妹は友人の家に避難してます』『その後で不幸な交通事故に有った……』『……』『偶然ですかねぇ?』 恐らく水野はストーカー男の事故の原因をアオイであると思っている。それは当たっているが証拠がどこにも存在しない。 そこで揺さぶりを掛け

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